“文字”というものについて改めて考えさせられる漫画『シュトヘル』
最近完結した漫画の中で抜群に面白かったシュトヘルという漫画について感想を書きます。
舞台は13世紀初頭のモンゴル。チンギスハンが領土を拡大していた時代。そこに、モンゴルに滅ぼされる西夏という国があった。そこは軍事力を持たない小国だったが、西夏文字というオリジナルの文字を持っており、それが西夏人の誇りであった。
主人公は西夏の女兵士。仲間をモンゴルに殺された恨みからモンゴル人を激しく恨むようになり、獣の力を手に入れ、モンゴル人を殺すことだけが生きがいに。いつしかシュトヘル(悪霊)と呼ばれるようになります。特に仲間を直接殺したツォグ族の将軍で、神箭手(メルゲン)と呼ばれるハラバルを殺すことに執着しています。
そのハラバルにはユルールという弟がいますが、ハラバルとは違い争いには無関心で、西夏の文字に興味をもちます。そして、西夏文字のすべてが彫られた板、玉音同を持ち出し、ツォグを離れ、玉音同を守るための命懸けの旅を始めます。
そんなとき、シュトヘルと出会うわけですね。
シュトヘルは当初、ユルールを仇であるハラバルをおびき寄せるためのエサくらいにしか思っていなかったのですが、ユルールから文字について話を聞くうちに、次第にその可能性にひかれていく、というストーリーです。
シュトヘル1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
- 作者: 伊藤悠
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/03/30
- メディア: コミック
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記した人の思い ねがいを伝えようとする。
その人が死んでも 文字は、
託された願いを 抱きしめているようで…
生き物みたいだ。
とはユルールの言葉です。
あしたわたしが死んでも、消えないのか…?
わたしの仲間の名前は…
この文字が、憶えていてくれるのか。…ユルール。
―それが…
…それが、文字なのか。
シュトヘルの言葉です。仲間のために、復讐という手段しか取ることのできなかったシュトヘル。新たな可能性を文字に見出します。
一方で残したくない記憶すらも残してしまうのが文字です。実はモンゴルの王の背中には「西夏の奴隷」という焼き印が残されていたのです。王は完全無欠でなければならない。西夏の文字が完全に無くなってしまえば、その印はただの傷にすぎなくなる。
それがモンゴルが執拗に西夏の文字、玉音同を狙う理由だったのです。
いつ死ぬかわからない、こんな時代だからこそ、文字というものに未来を託し、またそれと同時に文字というものに憎悪することになるんですね。
命をかけるべきものがあるという言葉は病だ
この病が跋扈する度に大勢が死ぬ。
これはハラバルの言葉です。ハラバルも文字の可能性を感じつつも、西夏が文化の発展にのみ力を注ぎ、自国を防衛する力を持つことを怠ったために滅び、力を持たない学者が、抵抗むなしく死んでいった光景を目の当たりにしています。
文字もいいけどその前に自分を守る力を持たないとどうしようもないだろと、これはこれで重い言葉です。
いくつかセリフを引用しましたが、こんな感じで言い回しがかっこいいんですよ。
あと絵がまた抜群にうまいです。
このテーマでこれだけ書けるって本当にすごいと思うんですけどね。
ぜひ読んでみて欲しいです。