『宮城谷三国志』のススメ。その特徴と、読みどころ
小説の三国志といえば、やはり、吉川英治の『三国志』が有名です。
三国志演義をもとに、日本人が読みやすいよう、独自のアレンジを加えた物語は、
日本人が三国志の世界にハマるきっかけとなりました。
その後、横山光輝の漫画『三国志』も、この吉川三国志をベースにして描かれ、
多くの日本人に読まれたため、
日本人の三国志の知識のベースは、ほぼ吉川三国志にあるといってもいいでしょう。
多分、コーエーの三国志シリーズの武将の能力も、これらを参考にしてますね。
その後に三国志を題材にした作品を書こうとする作家は、この吉川三国志に対する挑戦といっても過言ではありませんでした。
特徴を紹介出来たらなと思います。
というわけで、箇条書きで特徴を書いていきます!
1.徹底した正史ベース
前述の通り、まだ連載が始まった当時、三国志といえば、
正史としての『三国志』を書くことについて、宮城谷さんは、後書きで、
それでも、連載をはじめた頃は、それまでの『三国志』の厖大な読者を、すべて敵にまわすような感じがしてこわかった。
演義こそが三国志だと思っている、熱心なファンたちを説得できるだけの筆力がなければ、「宮城谷の書く三国志は嘘だ」と最初から無視されてしまいます。
孤立無援ともいえる戦いを前に、いろいろな恐怖感に襲われていました。
と言っています。
実際、この作品の中には、頻繁に作者による補足や、推測が入ります。
しかしそれが、小説としてのテンポを崩さず、むしろ小説の一部として見事に溶け込んでいます。
読者は小説を楽しみつつ、正史三国志の詳細を知ることが出来ます。
2.後漢末から呉滅亡までを完全収録
だいたい三国志といえば、董卓の専横か、まあ古くても黄巾の乱の勃発くらい、
西暦でいう190年前後からのスタートでしょう。
西暦にして120年頃からのスタートです!!
曹騰を中心に、後漢末の外戚と宦官の対立、中国史上でも随一の悪官、梁冀なども描かれます。
この時代はこの時代で面白いですね~
もちろん終わりは、呉の滅亡、晋の成立までです!
3.マニアックな人物にも注目
それまであまり描かれたことのないであろう人物の活躍が知れて楽しいです。
序盤では皇甫嵩です。
黄巾の乱で活躍したということは知っていましたが、思っていた以上に名将で、
彼がもう少し貪欲なら、董卓の専横を止められていたでしょう。
鮑信も魅力的です。
他の作品では名前が出てくるくらいで終わってしまいがちですが、
今作では、曹操のよき理解者として、ともに董卓や黄巾賊と戦いを繰り広げました。
ゲームでも使ってみたくなるカッコよさです。多分すぐ詰むけど。
他にも、どちらかといえば文官タイプで、あまり語られることのないような人物のエピソードもすごく充実しています。
4.戦争よりも内乱が面白い!
これは三国志に限らず、宮城谷さんの歴史小説全般に言えることだと思いますが、
国内の跡継ぎ騒動とか、暗殺計画が手に汗握る緊迫感があって面白いです。
序盤の山場は何と言っても、孫程、曹騰らによるクーデターです。
発覚したら三族皆殺しのなか、計画を練り、ついに決行する場面は本当にハラハラドキドキです。
だが、明後日、孫程らの一挙がついえれば、済陰王は自殺するであろう。
曹騰もすみやかに殉死して、冥界をゆく済陰王に追いつかねばならない。
―明後日に、吉があるのか、凶があるのか。
曹騰は短剣を抱いてねむった。ねむりに夢はなかった。
↑この緊迫感ですよ。
終盤なら、孫権の死の間際ですね。
4人の重臣が互いに牽制しながら、孫権の最期を看取ったものが、
自分に有利な遺言を捏造できるという駆け引き。
面白かったです。
しかし、呉末期の政治の酷さと言ったら‥、
こんなに乱れていたんですね。
まとめ
正史についてもっと詳しく知りたい、という方には是非オススメです。
逆にまだこれから、という方にはやっぱり吉川三国志のほうをすすめたいです。