喜劇?悲劇?そして記憶とは!?『木漏れ日に泳ぐ魚』
確かに続きが気になって仕方がない!
電車で読んだら乗り過ご過ごさないこともないかもしれない
登場人物は1組の男女。舞台はとあるアパートの一室。
明日から別々の道を進むこの2人が、最後の夜、ある出来事について話し合います。
それは、1年前に死んだ1人の男について。
お互い相手が殺人犯ではないか?と疑い、互いの腹を探り合い、心理戦が始まります。
メインは男の死についてですが、読者は2人の会話を通して、そもそも死んだ男は何者なのか、なぜ死んだのかというところから推測していかないといけません。
さらに、会話をしている2人が何者なのか、というところも徐々にわかっていくわけですが、ここでも次々と予想外の事実が明らかになっていきます。
物語は1章ごとに、視点が男視点、女視点と変わっていきます。そして、片方の発言でヒントになったことが、次の相手の章で1つの事実の解明の手掛かりとなり、さらに新たな事実へのヒントが生まれ、という流れです。
こういう構成も過去にないことはないですが、非常にうまく使っています。
最後は男の死の真相がどうでもよくなるくらいの驚愕の真実が2人の前に突き付けられます。
あと文章がすごく上手ですよね、この作者。当たり前ですけど。
「―あるよ」
私は、自分の声がそう答えるのをきいた。
無意識のうちに答えていたってことなんでしょうけど、そう書くよりも、自分を俯瞰的に眺めているような、ふわっとした感じが出ていいですね。
もっとも、過去にも似た表現はあるでしょうけど。
僕たちはカメラを通して、未来の僕たちに笑いかける。
歳月というフィルターを掛けた時、全てが甘い過去となるように。
全てが幸福な記憶になるように。
この文章だけだと、何が言いたいが伝わりづらいかもしれませんが、あまりネタバレになってもアレなので。
この話は1枚の写真についての物語であり、物語のテーマの1つは記憶でしょう。
その本質を、ズバっと切り取っている気がします。
そういえば、MONSTERという漫画の、エヴァとライヒワインの会話のシーンでこんなセリフがあります。
エヴァ「不思議ね‥ 人間て‥
悲しみはどんどん薄れていって‥ 楽しかった記憶ばかりが残っていく‥
人間て、都合よくできてるわよね‥」
ライヒワイン「だから生きていけるんだ」
この場面好きです。いい言葉ですね。
そして、登場人物の女性も、これに似た考えを持っていたからこそ、衝撃の真実を受け入れ、これを喜劇であると語っているのかもしれません。
なんとなく主人公の設定なんかはこれを思い出します。
ミステリーではないですが、こっちも面白かったですね!
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